かつて長野駅から裾花川沿いに鬼無里方面へ線路があったという善光寺白馬電鉄という鉄道路線があります。鉄道は昭和初期のわずか数年間運行され、第二次世界大戦の戦況悪化に伴い休止、そのまま廃止となってしまったようです。法人自体は現在も社名そのままに存続しており、トラック輸送を行っています。
鉄道遺構のようなものが残っていないかと調べ物をしていたのですが、市街地のアクセスしやすいところには分かりやすい遺構は残っていないようでした。そんな中で割とそれらしい遺構としては山王駅跡地が挙げられます。
青い線が当時の線路で、黄色い矢印で示した箇所が山王駅と手前の立体交差と思われる場所です。山王駅は現在の長野市立山王小学校の校舎とグラウンドの間にあったようです。
駅は築堤の上にあり、道路からは階段を登ってアクセスするようになっていたようです。当時のものと思われる階段が現在でも確認できます。
階段は道路からフェンスで仕切られているので登ることはできません。
築堤の上にあったのであれば手前の道路とは立体交差になっていたはずなのですが、廃線から時間が経っていることもあってか橋台などの遺構はもう残っていません。
立体交差になっていたことの確認と築堤区間がどこからどこまでだったのかを調べてみたかったので、国土地理院の古い航空写真を使って実体視をしてみることにしました。
空中写真の実体視
実体視について
実体視というのは空中写真判読に使う写真の見方で、移動しながら連続的に撮影された2枚の空中写真の1枚を左目で見て、もう1枚を右目で見るという技術です。
このような見方をすると脳内では写真が立体的な像として認識されるので、平面の写真からでも建物や地形の様子を把握することができます。鉄道の築堤は比較的大規模な構造物なので、写真の縮尺次第ですが実体視すれば判読可能なことが多いです。
実体視は裸眼であれば簡単に言うと”寄り目で見る”ことにより可能です。ただし人によっては難しい場合があります。実体鏡という専用の器具を使う場合もあります。
写真の準備
写真は連続して撮影された隣同士の2枚が必要になります。国土地理院の空中写真閲覧サービスでちょうど良さそうなコースを探します。
今回の場合は1965年撮影のMCB656X-C8-11とC8-12(図中の7番と2番)を使用します。これであれば隣同士で撮影コースも同一なので実体視ができます。
空中写真をダウンロードしたら、画像ビューアーでそれぞれの写真を開き、目的の場所を拡大表示します。そして、西側の写真(今回の場合MCB656X-C8-11)は画面左側に、東側の写真(MCB656X-C8-12)は右側に配置します。
実体視する
準備ができたら実体視をします。裸眼で実体視をする場合は”寄り目で見る”以外にコツを説明するいい表現がないのですが、私はいつも目のピントを実際の画面よりも奥に置くようなイメージを持つと実体視に入りやすく感じています。
また、左右の画像の位置関係も重要です。左右の画像が離れていると実体視が完成したときに広範囲が立体に見えるメリットがありますが、一方で眼筋に柔軟性がないと写真同士が重なりきらずに実体視が完成しない場合があります。そのため、最初のうちはピンポイントで見たいところだけをごく近づけて左右配置すると簡単だと思います。
画面に自分の顔が近いと目の動く距離が大きくなってしまうので、うまく行かないときはちょっと身体を画面から引いてみると実体視が完成しやすいと思います。
分かりやすいよう色分けして並べてみました。両目で見た時に左右の写真にある緑の線(線路の線)が重なるように見ると周辺の建物や緑の線の下側にある築堤に登っていく区間を確認できます。
判読結果
写真が少々古かったのもあって不確かな点はありますが、確かに築堤区間になっていることが確認できました。現在の長野大通りの少し南側から登り始め、長野県庁に達したあたりで築堤区間は終わりになっていたように読みとれます。
本当は印画紙に焼き付けた空中写真同士で実体視をすると解像度も高くて正確な判読ができるのですが、インターネット経由で見られる写真でもこのように簡単な写真判読なら可能だと思います。こういった廃線探訪や道路の変遷を調べるのには何かと便利です。